睡眠負債は寝だめ否定のための政府の陰謀だった

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「寝だめはできない」という言説を信じていないか。その根拠に使われる「睡眠負債」という概念、よく考えると寝だめと全く同じことを言っているのだ。本記事では、この逆説を論理的に解き明かし、土日に思う存分寝ることへの正当性を取り戻す。

「睡眠負債」という言葉が生まれた背景

睡眠負債(Sleep Debt)という概念は、スタンフォード大学の睡眠研究者ウィリアム・デメント博士らが広めた。要旨はこうだ:

「睡眠不足は蓄積し、認知機能・免疫・代謝に悪影響を及ぼす。負債は返済しなければならない」

この概念が一般に広まったとき、セットで広まったのが「寝だめはできない」という主張だった。「負債は返せるが、貯金はできない」という解釈で、週末に長く寝ることを否定する文脈で使われるようになる。

ここで待ってほしい。本当にそうか?

「負債ゼロ」と「寝だめMAX」は同値である

睡眠負債論を数直線で図示してみよう。

← 負債が増える                   負債が減る →

  -∞ ----[-3]----[-2]----[-1]----[0]---- ...

           月    火    水    木   金(理想的な状態)

睡眠負債論の主張では、原点(0)が「健全な睡眠が取れている状態」だ。負の方向に進むほど睡眠不足が蓄積し、パフォーマンスが落ちる。

ここで問う。原点より右は何か?

睡眠負債論は「貯金はできない」と言う。だとすれば原点の右は存在しないか、存在しても意味がないとされる。つまり数直線は実質こうだ:

  -∞ ----[-3]----[-2]----[-1]----[0]

                              ↑ここが上限(天井)

一方、寝だめ論における「貯金」の数直線を見てみよう:

  [0]----[+1]----[+2]----[+3]---- +∞

   ↑ここが下限(底)

2つの数直線は、原点の位置を変えただけで同一の指標である。

睡眠負債の「0」は、寝だめ論の「十分に蓄積された状態」と同じ地点を指しているに過ぎない。ラベルが違うだけで、指しているものは同じだ。

利子はパフォーマンスで払われる

睡眠負債論のもう一つの主張は「負債には利子がかかる」というものだ。つまり睡眠不足は単純に「不足した時間×1」で返せるわけではなく、日中の集中力低下・ミス増加・免疫低下という別の通貨で利子を払わされる

この点は正しい。研究でも裏付けられている。

しかしここが重要な論点だ:

利子はパフォーマンスという別の通貨で払われるのだから、睡眠時間という通貨だけで見れば、借金と貯金は純粋な加減算になる。

  • 平日に5時間睡眠 → -3時間/日 × 5日 = -15時間の負債
  • 土日に10時間睡眠 → +3時間/日 × 2日 = +6時間の返済
  • 残債:-9時間

数字だけ見ればこうなる。「全額返済はできない」という主張には同意する。でも「部分返済すら意味がない」とはどこにも書いていない。

むしろ研究では、週末の回復睡眠が認知機能・気分・代謝の一部を実際に回復させることが確認されている(Spiegel et al. や Leger et al. の研究など)。

「寝だめ不可論」の本当の意味

「寝だめはできない」という言説の正確な意味は、「完全な先払いはできない」だ。

月曜から金曜まで毎日10時間寝たからといって、その後5日間不眠で働いても大丈夫ということにはならない——これは確かにその通り。

しかしこれを「だから週末に長く寝ても無駄」と解釈するのは、論理の飛躍である。

正しい解釈はこうだ:

言説正しいか
睡眠不足は蓄積する
週末の回復睡眠で一部の負債は返せる
寝だめで完全に先払いできる
だから寝だめは全く意味がない❌(論理の飛躍)

「完全な先払いはできない」と「部分的な後払い(回復)は意味がある」は矛盾しない。

ではなぜ「寝だめ否定論」が広まったのか

ここからは筆者の推論だが、おそらく原因は2つある。

1. 研究の過剰な単純化

「負債は全額返済できない」という研究結果が、メディアや自己啓発業界に「寝だめは無意味」として広まった。ニュアンスが落ちた。

2. 生産性イデオロギーとの親和性

「週末も規則正しく早起きしろ」という主張と「寝だめは無効」は非常に相性が良い。睡眠負債論は、意図せず「フルタイムで稼働し続ける人間」を正当化するフレームとして機能してしまった。

結論:土日は寝ろ

論理的まとめ:

  1. 睡眠負債の「負債ゼロ」と寝だめの「貯金MAX」は、原点をずらしただけの同一指標
  2. 利子はパフォーマンス通貨で払われるため、睡眠時間の加減算はシンプルに成立する
  3. 完全な先払いはできないが、部分的な後払い(回復)は実際に機能する
  4. 「寝だめ否定」は研究の単純化と生産性イデオロギーの副産物である

したがって:

土日に長く寝ることには、明確な意味がある。思う存分寝よう。

平日の睡眠不足を週末で完全にリセットはできないが、回復は確実に進む。大事なのは「完璧な睡眠衛生」より「できる範囲での回復」だ。月曜の朝が少しでもマシになるなら、それは十分に価値がある。

寝だめは政府の陰謀によって貶められた、正当な回復行動である。今週末も、安心して二度寝しよう。

参考にした研究・文献

  • Spiegel, K., et al. “Sleep curtailment in healthy young men is associated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite.” Annals of Internal Medicine (2004)
  • Leger, D., et al. “The risks of sleeping ‘too much’.” PLOS ONE (2014)
  • Van Dongen, H.P., et al. “The cumulative cost of additional wakefulness.” Sleep (2003)
  • デメント, W. & Vaughan, C.「睡眠と夢——脳と心の謎を解く」(翻訳版)

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